町本会の公開会議(イベント)一覧です【更新】

町本会公開会議(イベント)、開催済みのものと、開催予定のものとを、一覧にまとめてみました。くわしくは、リンク先の記事をご覧ください。

(*7月以降は予定ですので、日時・名称・開催の有無などが変更になる場合があります。)

子どもの文化普及協会

 

 

「子どもの文化普及協会」って、ご存知ですか?
ぼくは知りませんでした。
「町には本屋さんが必要です会議」を立ち上げたとき、真っ先にご連絡をくださったのが、表参道にある「子どもの文化普及協会」さんでした。「私たちは、子どもが本に触れられる場所を、もっと、もっと増やしたいと思っている」と。

町の近所の本屋さんがなくなるということは、すなわち、子どもたちが、自分の足で行くことができる本屋さんがなくなるということです。
前回の「町本会」で、「なぜ、本屋さんだけがこんなにも惜しまれるのだろうか?」という話が出ましたが、それは、物心つかないうちから親に手を引かれ連れていかれ、成長するたびに色んなジャンルの本に興味をもつようになる、そんな場所が「町の本屋さん」だったからだと思います。
たとえば、ある日、マンガを1冊買えるだけのお金で、文庫本を買う。
本屋さんは、子どもたちにとって、もっともわかりやすい、成長を刻める場所でもあります。


2月の下旬、「子どもの文化普及協会」の取締役である岩間建亜(いわま・たけつぐ)さんがお話ししてくれたのは、彼らが1976年から取り組んでいる、「あたらしい」試みでした。
それは、「クレヨンハウス」の誕生からはじまります。子どもの本の専門店として1976年の12月にオープンしたクレヨンハウスは、当初は、23坪の小さなお店でした。
店の半分がカフェとキッチンで、いまと変わらず、親子がゆっくりと本を選べるような場所を目指していたといいます。
そのころは、まだ日本には数えるくらいしかなった絵本の専門店でしたから、選書には、とにかくこだわりました。けれど、取次からは、日々、発注していない本が送られてきます。一方で、ほしい本はなかなか店には届きません。


「自分の店に並べる本は自分たちの目でしっかりと選びたい。選んだ本は責任をもってちゃんと売る。つまり、買い切りでいい。だから、そのぶん、卸値を下げてもらえないだろうか?」

他業種の小売りからすれば、ごくごく普通の主張だったのにもかかわらず、岩間さんたちの主張は、叶うことはありませんでした。

それから10年。

自分たちの望むやり方を実現するために、岩間さんたちは、あたらしく自分たちの手で取次をつくりました。それが、「子どもの文化普及協会」です。
「子どもの文化普及協会」が提案する取引条件は、驚くくらいに明快です。

 

・買い切り。

・口座開設にあって、保証金は不要。

・卸値は基本的に定価の70%(出版社からの卸値に+10%をしています。なので、65%仕入れの出版社の場合、75%となります)

・発注単位は3万円以上。送料無料。

 

取引のある出版社は240を数えます。また、本屋さんだけではなく、おもちゃ屋さん、動物園から、仏具店まで、さまざまな小売店に本を卸しています。それ以外にも、絵本の知識を活かして、小売店の要望に合わせた本のセレクトもやっています。たとえば、とにかく「かえるの本」を集めてほしい、といわれれば、スタッフ全員で「かえるの本」の記憶を掘り返し、「かえるの本」を集めます。

「クレヨンハウスの運営に10年携わってきて、本屋さんを経営する難しさというのを学びました。2割の粗利では本当に厳しい。なんとか3割を確保できないかと考えたんですね。子どもの文化普及協会をはじめた1986年の時点で、本屋さん、出版社、ともに厳しいという声はありました。子どもの本の世界では、あたらしい作家もなかなか育ってきていませんでした。このままでは、親子が本に出会える場所がどんどん減ってしまう。そんな危機感があって、最初は出版社6社に相談をさせていただいたんです」

自分の町から本屋さんがなくなってしまったとき、若い人たちは、自分で本屋さんをやりたいといいます。けれど、新たに口座を開いて、新刊書店をやることは、現在のシステムでは、ほぼ不可能だといっていいと思います。
町から本屋さんがなくなっていった理由はひとつではありませんし、だれか特別な悪玉が存在しているわけではありません。なにかを一つ変えれば、問題が解決するというものではないと思います。
けれど、やる気のある人はたくさんいます。本を通して、本屋さんという場所をとおして、なにかを伝えたい人たちの数は、以前よりも増えている印象すらあります。

「子どもの本は、出版物全体では約5%の売上げしかありません。かつては3万5千軒あった本屋さんも年々減り続けています。子育て中のお母さんたちは忙しいし、子どもたちも減ってきている。そのなかで、どうやって、子どもたちに本を手渡していくか。本屋さんだけでなく、もっといろんな場所で本を手渡すことはできると思っているんです」

人と本が出会える場所をどう守り、どうやって、つくっていくのか。
「子どもの文化普及協会」の取り組みは、たくさんのことを、示唆してくれているように思います。

 

子どもの文化普及協会HP

https://b2b.kfkyokai.co.jp/shop/default.aspx

 

(文責  島田潤一郎 

 取材日 2014年2月19日)

 

 

町には本屋さんが必要です会議 at 小豆島

 

受付はじまっています!

 

「町には本屋さんが必要です会議」Vol.4 

~小豆島から本屋さんと本を考える~

 

小豆島の「迷路のまちの本屋さん」にて、サウダージ・ブックスの

淺野さんと、参加者のみなさんと、本屋さんと本について、

ゆっくり、のんびり、真面目に話し合うイベントです。

どうか、お気軽に。

ただ、参加にあたって、宿題がひとつあります。

「本屋さんに一番必要なものなんですか?」を事前に考えてきてください。

 

出演:淺野卓夫(サウダージ・ブックス)、島田潤一郎(夏葉社)

日時:4月5日(土)11:30~

会場:迷路のまちの本屋さん(香川県小豆郡土庄町甲405)

定員:先着20名

参加費:カフェにて1ドリンクのオーダーをお願いいたします。


◎会場へのアクセス
高松港9:55発→土庄港10:55着
宇野港9:30発→土庄港10:40着

土庄港から迷路のまちの本屋さんまでは、徒歩約20分です。

最寄りのバス停土庄本町まで、

土庄港11:20発→土庄本町11:25着のオリーブバスもございます。

 

お問い合わせお申し込みは、

0879-62-9889

または、
saudadebooks@gmail.com

まで。

 

お申し込み、お待ちしております。

 

 

第2回会議の議事録(下)

 

第2回目の「町には本屋さんが必要です会議」。前半部では他業種の小売りの状況を見てきましたが、後半では、レコード屋さんの状況、そして、本屋さんの話へと続いていきます。
決して明るい話ではないですし、こうしたらいい、というような未来も提示できていません。
けれど、まずはしっかりとした現状認識から、話を進めていきたいと思っています。
そうした議論を粘り強く続け、最終的には、声を大にして「町には本屋さんが必要です」といいたいのです。
それでは、後半をどうぞ。

 

 

笈入

お店を一周することでいろんな情報が目に入るという点にかんしては、往来堂もコンビニと通ずるところがある。本屋さんの究極は、世界のすべての本が並んでいるということ。つまり、必要な本が必ず見つかるということだけれど、うちのような20坪の店はそれを目標にはできない。だから、店全体をつかって、いろんな本をお客さんにちゃんとアピールできるように工夫する。
たとえば、吸引力の強い女性誌を店のいちばん奥に置くということは、コンビニのいちばん奥にペットボトルが並んでいることと一緒。20坪の店だから、奥まで歩いていける。その間に、いろいろと棚を見てもらえる。ただ、コンビニと違って、お客さんは同じ本を二度買わないので、商品をどんどん入れ替えていかなければならない。

 

島田

なるほど。

 

笈入

ただ、定番があるジャンルもある。それは児童書。商品を入れ替えるのではなく、お客さんがどんどんと入れ替わっていく。もちろん、そうした定番を置きながら、新刊などを加えて、新しい彩りを足していく。
ぼくもかつては大きな書店にいて、できるかぎりすべての本を置こうという考えで、仕事をはじめていった。そして、いまだに、「あれも置こう、これも置こう」という呪縛から逃れられていない。

 

空犬

ずいぶん経っているのに?

 

笈入

そう。「あれも置こう、これも置こう」って、つい思ってしまう。そのたびに、これって本当にお客さんのためになっているんだろうかと考えてしまう。かといって、あんまり本の種類を絞って、逆に棚がスカスカになってしまうと、「この本屋さんには何かがありそう」という感じがなくなってしまう。
ドラッグストアも棚がぎっしり詰まっているじゃない?

 

島田

ドラッグストアの1店舗あたりの平均品目数は17,000種類。

 

笈入

そのぎっしり感は必要なんだけれど、小さな店がなんでもかんでも置こうとすると、行き詰まる。そうすると、お客さんをある程度想定して、他店とのすみ分けを意識していったほうがいいということになる。

 

空犬

コンビニやドラッグストアだと「売れているもの」という明確な物差しがあるけれど、書店の場合は?

 

笈入

売れているものを置くというのは前提で、そのうえで、得意なものをやるということが大事。得意な本を扱って、そのジャンルは引き受けさせてもらうという感じかな。
たとえば、うちの場合だとコミックはそんなに置いていない。ワンピースなんかも最新刊しか在庫がない。そうすると、お客さんからワンピースの既刊の問い合わせを受ける。月に2回くらい聞かれると、置いたほうがいいのかなと思う。けれど、そういうふうになんでも置くといよりも、代わりのもの、得意なものを置いていくというスタンスのほうが、小さな店には合っているように思う。
たとえば、往来堂の場合だと、マンガの担当者が情熱をもって棚をつくっていて、「ゆるふわ系」とか「グルメ系」とか「不朽の名作」とか、文脈棚ではないけれど、独自の選書眼を前面におしだして並べている。お勧めのPOPや作家の色紙なんかも飾っている。

 

島田

あの棚はおもしろい。往来堂さんのあの店の大きさとも合っている。あれくらいの坪数だといろんな本が目に入る。

 

笈入

でも、いいとはいわれるけれど、20坪って、けっこう経営的には厳しい大きさ。一般論でいうと、書店の粗利は22~24パーセント。1000万売って、粗利が220万くらい。人件費は、セオリーからすると10%には押さえたい。でも、12、3%にまでいってしまうことが多い。家賃は6%くらいまでがいいけれど、7%とか12%とか、店によって違う。水道光熱費、電話代などの支払いもある。
たとえば、2人体制で 1日14時間働くとする。そうすると、1日の店の労働時間が28時間。それを30日やって、時給が1000円だとすると、84万円の人件費がかかる。そうすると月商840万円は欲しい。でも、この額に、店長や社長の給料は入っていない。
なにがいいたいかというと、20坪の店は2人体制でまわすことはできる。そして、30坪もたぶんできる。けれど、安全上の問題があるし、食事に行ったりトイレに行ったり電話に出たりもするから、ひとりではお店をまわすことができない。
2人体制というのは、いわば本屋さんの人件費の最低の固定費であり、ベース部分。20坪の店だと、その固定費の割合が相対的に高くなる。

 

空犬

小売業界の成功例をそのまま書店に活かすことは難しいと思うのだけれど、たとえば、1985年に出た能勢仁さんの『本大好き人間のブックストア経営の本』では、すでにコンビニに学べという言葉が出ている。それは、陳列のことだとか、品目を絞るとか、導線とか、そういう具体的なこと。同じくらいの坪数のいちばんの成功例がコンビニであるわけだから、単純に、これを競合という一面だけで無視するわけにはいかない。

 

島田

音楽業界の例は?

 

空犬

いろいろ調べてきたんだけれど、レコード店も、やはりかなりの勢いで減っている。ただ、出版と違って、店舗数を調べるのは容易ではなかった。出版の場合は、先ほどの能勢さんのように、書店を研究したり、論じたりする人が割合いて、資料もたくさんあるんだけれど、音楽業界の場合、そういった店舗自体を論じたものがない。「日本レコード協会」が立派な統計を出してはいるんだけれど、それはレンタル店が中心で、小売店だけの数字は載っていない。
結局、図書館のレファレンスサービスをつかって調べたんだけど、「日本レコード商業組合」という団体があって、ここは数字は公表していないが、聞くと教えてくれるというスタンス。ただ、この組合にはタワーレコードやツタヤなどが加入していない。新星堂や山名楽器などは入っている。だから、これからあげる数字は、「町の本屋さん」というのと同じような意味で、「町のレコード屋さん」の数ということになると思うんだけど、2002年に 1524店舗あったレコード店は、2013年には 541店にまで減っている。CDの売上げは97年から98年がピークで、このあたりはCDバブルといったりするらしい。

 

島田

ミリオンセラーが次から次に出たときだ。

 

空犬

そう。そこから数字はどんどん落ちていって、基本的には右肩下がり。

 

島田

 541店って、想像していた以上に少ない。

 

空犬

ツタヤやタワーレコードがあるから、生活していても買う場所がないという印象はあまりしないけれど、町のレコード屋さんという意味では、壊滅的に減っている。
それと書店との比較で気づいたのが、書店の場合、地方の名店が閉店するときは必ずといっていいほどニュースになる。でも、レコード店の場合は、そのニュースがほとんど見つからない。たとえば、ヴァージン・メガストアが日本から撤退した記憶ってある?

 

島田

たしかにない。

 

空犬

ヴァージン・メガストアが日本に来た時はあんなにニュースになったのに、2009年の撤退については、わずかなメディアでしか報じられない。HMVの渋谷だけがメディアで大きく取り上げられたが、それは、CDバブルの象徴としてという一面が大きかった。レコード店の閉店がユーザーの意識にのぼりにくいのはなぜなんだろう。調べていて、とても不思議な感じがした。

 

島田

本屋さんだけが惜しまれているんだろうか?

 

空犬

本屋さんの苦戦や出版不況がこんなにも話題になっているのは、我々の業界だけなのか、それを調べたいという気持ちもあった。

 

島田

ひとついえるのは、出版業界は自前でメディアをもっているということだけれど、それだけだとも思えない。

 

空犬

繰り返しになるけれど、むかしから音楽業界はよく出版業界と比べられてきて、それは、どちらも、かつては不況に強いといわれたというのと、所得の余剰分がつかわれる娯楽・嗜好の商品であるということ、あとはパッケージ商品ということ。これだけ共通点があるのに、こんなにも取り上げられかたが違う。
レコード店の減少の原因については、よくいわれていることだが、ネットや携帯などの普及によるコンテンツの多様化、つまり、お金がそっちに流れているという点を論じる人が多かった。音楽配信サービスも登場もしてくるのだけれど、これに対しては、そこまでではないと否定的な意見もあった。
いちばん本と違うのは、無料動画サービスの登場。つまり、youtube。音楽を聴くために無料動画サービスを使うというユーザーが増えた。

 

島田

このあいだツタヤの方とお話しする機会があって、DVDレンタルの数字はどう変化しているのかを聞くことができたんだけれども、やっぱりかなり落ちている。ただ、それはyoutubeというよりも、ハードディスクレコーダーの容量が大きくなったことのほうが大きいとおっしゃっていて、つまり、借りるまでもなく、自宅のレコーダーには撮り貯めしている映画がたくさんあるという、そういう認識だった。
もちろん、最近では、スマホの影響というのが間違いなくある。24時間という顧客の限られた時間のなかで、どれだけ自分の店に時間を割いてもらえるか。話を聞かせてくれた方はそのことを考えているとおっしゃっていた。

 

笈入

趣味に使える時間とお金は有限で、結局、便利な方には流れるよね。

 

島田

その趨勢にはあらがえない。

 

笈入

いろいろと便利になって、スマホで漫画も読めるけれど、それでもお店に来てほしいと思ったら、お店に来てもらう理由がないとダメだよね。当たり前のことだけれど。
その理由があって、はじめて本屋は必要とされる。けれど、理由がないのであれば、必要じゃないってことになる。

 

島田

すごい話になってきた。

 

笈入

さっき、コミックの棚の話が出たけれど、うちにはワンピースはないが、違うコミックはある。ワンピースでないそのコミックを選んでくださったお客さんが、この本のことは知らなかったけど、買って読んでみて、よかったな、この店には選択されたいい本が置いてあるんだな、と思ってもらえれば、それはその本屋さんが提供している価値の一部だと思う。
たとえばコンビニの話に戻ると、理論上コンビニが扱える商品数はものすごい数になると思うんだけれど、それをものすごい絞っているわけでしょ。そうすることで、お客さんに価値を提供しているという一面がある。

 

空犬

コンビニって、これを置きたい、あれを置きたいって自由に発注できるの?

 

島田

そこまではぼくもわからないけれど、コンビニの仕入れの成功例として出てくるのは、地域と密接している店が、たとえば運動会などの情報をしっかり把握していて、売り逃しや機会損失をなくしているという例。

 

笈入

コンビニって、トライ&エラーを繰り返すことによって、だんだん品目が絞られ、つまり無駄が省かれて、売れる店になっていくと思うんだけど、書店の現場ってその余裕がない。その足りない理由のひとつは、できるだけたくさんの本を置こうとするというところにあるような気がする。いい本をしっかり仕入れて、仮説と検証をもっとやっていきたいけれど、単純に書店は粗利が少ないから、労働力が足りない。睡眠時間を削ってやるとかそういうことになる。非常に苦しい……。

 

空犬

そこをみんなで一緒に考えてみようというのがこの会の趣旨でもあるわけだから……。

 

笈入

今日の話を聞いていても、大資本が強い時代だなということをあらためて思う。大資本はバイイング・パワーもあるし、ディスカウントもできる。利益もとりやすい。店舗を標準化することで、1店舗あたりにしてみれば、ノウハウを低コストで導入するということもできる。20坪の店よりは大きいから労働の効率もいい。

 

島田

セブンイレブンの店舗の平均坪数は40坪なのだけれど、その坪数と比較すると、たしかにその効率の意味がよくわかる。

 

 

笈入

個人で店をやり、1から10までを全部やろうとすると、非常に効率は悪い。より正確にいうと、効率が悪くなってきているように思う。書店業界でも、この10年、15年で効率のいい大きな存在が出てきたから、比較の問題で、個人書店が同じことをやろうとしたときに、その効率の悪さが明らかになってくる。そのなかでどうやっていくのか。
たとえば、うちも加盟しているNET21のように、共通の問題は一緒に考えるとか、一緒にPOSシステムを開発するとか、やりかたはいろいろあると思っている。往来堂でも、NET21を通して、1店舗ではとてもじゃないけれど入れることのできないシステムを導入している。取次のシステムではなくて、自分たちが使いたいシステムを取り入れたい場合はコンピューター会社と相談しながらシステムを開発しなければならないんだけど、それは1店舗の予算ではできない。
こうした資材のほかに、ノウハウなどのマンパワー的なところも、みんなで集まって知恵を共有できるようにすることで、効率をあげることはできるのではないか。
社会全体が効率をあげているのに、個人店はやらなくていいということはない。なんらかの形でやっていかなければならない。

 

島田

笈入さんの話を聞いていて思ったんだけれど、コンビニなど他業種の本を読んでいると、お客さんのためにという一点にすべてを集約できる。お客さんに徹するという姿勢というのかな。それは本屋さんと絶対違うなと思う。お客さんが欲しいと思っているものを100%用意する。そのための仕事。でも、本屋さんは、お客さんが必要としているものを用意しているけれど、一方で、そこで働いている人が売りたい本もある。お客さんが求めてはいないかもしれないけれど、でも、心から読んでほしいもの。レコード屋さんもそう。でも、ほかの業界はそうじゃない場合が多い。お客さん至上主義というところに特化できる商売は強い。そのためにどんどん効率を上げていくことができる。

 

笈入

効率はもちろん大切だし、忘れてはいけないんだけれど、それだけじゃない、というのが本屋。そのバランスを見るのが、経営者の仕事だと思う。
時間がないから、今日のもうひとつの議題である「オーナーと経営の問題」の結論をいうと、経営者は現場の身になって、現場は経営者の身になる、という非常に当たり前のことに落ちつく。でも、なかなかこれが難しい。熱意をもった現場の担当者がその思いを棚にぶつけて、棚をとおして、本をお客さんに届ける。「この本はいい本だからお勧めする」という情熱がそこにはある。それしかないといってもいい。でも、それをあまりにやりすぎると、効率が置き去りになってしまう。本来であれば売れる本を売り逃してしまうことにもなる。
担当者が情熱をもって売っている本と、売れている本との両方のバランスをうまく導いて、数字をつくっていくというのが経営者の仕事。数字だけしかいわないと、店から情熱がなくなる。けれど数字をおろそかにすると、店は成り立たない。続かない。

 

第2回会議の議事録(上)

 

 2回目の会議は、2月27日(金)、前回と同じく、西荻窪のbeco cafeで行われた。出演者も前回と同じ。往来堂書店の笈入さんと、ブログ空犬通信を運営している空犬さん、夏葉社の島田の3名である。
 前回あがった課題を1ヵ月の間にそれぞれが調べてきて、それらを発表しながら、議論をしていくという方式。
 中身の濃い1時間半。2回にわけて議事録をまとめてます。
 まずは前半。他業種について。
 ぜひ、お読みください。

 

 

 

 

 空犬

 前回の第1回目は全体的な話だったが、今回はもう少し掘り下げて話を進めていこうと思う。ひとつは異業種の話。いま書店が大変だといわれているが、これが書店固有の問題なのか。小売り全体やほかの業種、特に出版と比較されやすい音楽業界の世界などと比較して、話していきたい。
それと、前回の会議に出たトピックだけれど、オーナーと経営の問題。自営店以外は、「店長=社長」でない場合が多いが、現場の書店員は経営の問題をどれくらい把握しているのか。または、どれくらい把握していくべきなのか。そのようなことについて語っていきたい。

 

島田

 小売り全体の販売額は、経済産業省の「商業動態統計調査」を調べると把握できる。卸の部分を除いた2012年の小売業販売額は、137兆5850億円。ピークは97年で、約148兆円。2012年と比較して約92%。8%の落ち込み。
一方、出版業界は、96年の2兆6563億円がピークで、2012年は、1兆7398億円。約35%減。小売り全体と比べると、落ち込みは非常にはげしいといえる。

 

空犬

 小売り全体の8%の数字をどう捉えるかによるけれど、出版と比べると、そんなに落ち込んでいない印象を受ける。

 

島田

それは百貨店に代表されるように、スクラップ&ビルドで、人件費を減らしつつ、資本を大きくすることによって、売り上げを維持しているというようなことだと思う。ヤマダ電機ユニクロのように、専門店自体が大きくなっているのも特徴。あとはイオン。
上述の「商業統計動態調査」を見ていくと、小売業販売額のなかの約15%をいわゆる大型店が占めているのだけれど、そのトータルの販売額は19兆5916億円。数字のカウントの仕方が違うから正確な比較ではないが、大型店の代表格といえるイオンの2012年の決算時の売り上げは 5兆2233億円。すごいというほかない。
こうした「商業統計動態調査」以外に、経済産業省のもっと大規模な調査が「商業統計速報」。これは2007年が最新。ここでは店舗数などさらに細かい数字を見ることができる。2007年の小売業全体の数は、1,137,859件であり、うち法人が 565,969件、個人が 571,890件である。インターネット上見ることができるもっとも古い調査結果(1994年)のものを見ると、法人が 581,207件とほぼ変わらない一方で、個人は918,741件にものぼる。個人に関しては、13年前と比較して約38%も減っている。これらの数字を見ると、個人、つまり自営が消え、大きな資本のなかにどんどん取り込まれているというのが、あきらかになっていると思う。

 

空犬

 どの業種が、とかという、細かい数字もわかるの?

 

島田

 そこまではわからないが、たとえば、小売りを研究をしていたある論文を見ていたら、鮮魚、つまり魚屋さんの総売上高のうち、1960年の時点では、約83%が自営の店舗によって販売されていた。それが、2007年だと、25%にも減っている。

 

空犬

 増えている自営業はあるのだろうか?

 

島田

 もしかしたら、雑貨屋さんなんかは増えているかもしれないが、ぼくが調べているかぎりはない。美容院などは増えている印象はあるけれど、これは小売りではなく、サービス業。
本屋さんの話に戻ると、本屋さん以外のほとんどの小売りは、資本が大きくなればなるほど、仕入れがしやすくなったり、安売りできたりと、スケールメリットを発揮して、巨大化していくことができるが、本屋さんの場合は定価は同じ。ここが決定的に違う。『本屋図鑑』で全国を取材したけれど、シャッター通りになっている商店街であっても、本屋さんは残っている場合というが多い。それは、外商の部分ということでもあるのかもしれないけれど、ほかの小売りと比べて、価格競争に巻き込まれてこなかったということが大きいのではないか。
ただ、複雑なのは、これらのあらゆる小売店の激減によって、一個人の消費者として不便を感じているかというと、そんなことはないという……。

 

空犬

 小売店でも、たとえば、24時間スーパーとか、コンビニなどのチェーン店によって、便利さは以前より増しているかもしれない。

 

島田

 坪数が大きくない店舗でも元気な小売りはけっこうあって、ぼくが今回調べたのが、その代表格ともいえる、コンビニとドラッグストア。コンビニが増えていっているのはもはや日常の光景ともいえるものだけれど、この数年、ドラッグストアの増え方が目立つ。海文堂書店さんのあともドラッグストアになってしまったし。

 

空犬

 書店のあとにドラッグストアが入るというケースはほかのところでも目につく。

 

島田

 というのも、ドラッグストアの平均の坪数はだいたい200坪で、中型の書店が抜けたあとに入りやすいのだと思う。そのドラッグストアが近年どれだけ大きくなっているのかというと、2000年に11,787店、売上が 2兆6628億円だったのが、2012年になると、店舗数が 17,144店、売上は 5兆9408億円にもなっている。しかも、高齢化社会を見据えて、まだまだ数字は伸びるといわれている。

 

空犬

 ドラッグストアとは書店は競合しないけれども、マツモトキヨシなどを見ていると文具などの雑貨は扱っているよね?

 

島田

 ドラッグストアは、薬と食品などの他の商品をいかに噛み合わせるかで利益を出す構造になっていて、粗利などを業界本などで調べると、薬はだいたい35%となっている。ヘルスケアも30%くらいは粗利があって、これらが利益を稼ぎ出す商品。これを購入してもらうために、食品の安売りなどでお客さんを引きつけるわけだけれども、食品はドラッグストアでは約15%の粗利だと書いてあった。こうしたものをミックスして、ドラッグストアの粗利は平均で約25%。しかも基本は買い切り。
(後日、調べたところ、返品率は36%もありました。すいません)

 

空犬

 買い切りを前提とすると、そこまで旨味はないよね。

 

島田

 ただ、お客さんはいつも入っている印象がある。これは、町にいるお客さんが店に対して何を求めているかということに対するひとつの回答であるようにも見えて、欲しいものは特にないけれど、なにか買いたいなと思うとき、フラッと立ち寄る場所としてドラッグストアの存在が見えてくるようにも思う。男性がひとりで行くことはあまりないけれど。

 

空犬

 ふだん吉祥寺のドラッグストアを見ていても、お客さんが入っている印象がある。

 

島田

 マツモトキヨシサンドラッグが向かい合っているのとかを見ると、すごいなあと思う……。
次にコンビニについて。

 

空犬

 こっちのほうが出版業界からすると気になる。雑誌の影響もあるし。

 

笈入

 ただ、コンビニに雑誌をとられたというのはもう10年以上も前の話。

 

島田

 たしかにコンビニの雑誌の販売額はこの15年で半分以下に落ちている。

 

笈入

 書店で落ちている以上に、落ちているよね。

 

島田

 コンビニの全体像はというと、『商業界』の2013年6月号を見ると、店舗数は50,572店で、セブンイレブンが15,307店、ローソンが11,226店、ファミリーマートが9,536店。以上の3つで全体の70%以上を占める。特筆すべきなのは、セブンイレブンが1日の平均売上が67万円で、これは他のコンビニの平均より12〜20万円も高いということだ。鈴木会長の本を読んでいると、この点を何度も強調している。粗利に関してははっきりとしたデータは出てこないのだが、ある経済ニュースで、セブンイレブンがプライベート商品の売行好調によって、粗利が30%を越したとあった。
出版業界で過去最高の売上があった1996年と2012年をセブンイレブンの数字で見てみると、1996年にセブンイレブンが 6875店舗、売り上げが 1兆6090億円。2012年は15,072店舗。全国の書店の数より多い。売上げは 3兆5084億円。

 

空犬

 すごいな。

 

島田

 コンビニはかつては飽和説がとなえられていたが、そこから伸びた。銀行だとか、プライベートブランドだとか、カフェだとか、あらたなサービスを追加していき、変化していった。

 

空犬

 さっき、笈入さんは、雑誌にかんしてはコンビ二の影響はすでにないといっていたが、いまでも出版業界の数字を話すときはコンビニの影響云々の話をする人は多い。

 

笈入

 往来堂書店でいえば、ぼくが店に来たときにはすでにコンビニがあったから。
コンビニでいえば一時期と比べて雑誌のアイテム数が激減していることのほうが気になる。いつからかは正確に覚えていないけれど、同じ雑誌を複数陳列している。たくさん種類を扱うことをやめている感じがある。

 

島田

 あらためて、なぜドラッグストアとコンビニを調べたかというと、さっきの話と重複するけれども、むかしは本屋さんが時間つぶしの場所だった。でも、いまは単純に、もっと居やすいという理由で、コンビニやドラッグストアに人がいるという印象がある。

 

笈入

 コンビニにたむろするのかな?

 

島田

 ぼくはけっこういる。雑誌を見たり、カップラーメンの新商品を確認したり。あれ、すぐに絶版になっちゃうから(笑)。でも真面目な話、セブンイレブンは1年間で7割の商品が入れ替わると鈴木会長が書いていた。とにかく意識して回転を早くしている。

 

笈入

 本屋さんと似ているところと似ていないところがある。いちばんの違いは、お客さんは同じ商品を2度買わないというところ。

 

島田

 あと、鈴木さんが書いていることで印象的だったのは、とにかく商品を絞るというところ。全体の品目数をしぼったうえで、ケースのなかのコーラを1列でなく3列、4列と並べたり、プライベートブランドのビールをどんと面陳で展開したりするという。そうすると、お店を一周することで、いろんな情報が目に入ってくる。

 

空犬

 多面展開をするのは書店も同じだけれど、全体の商品品目を絞るという点では、書店は少し違う。ただ、他業種と書店との違いは、笈入さんもさっきいったように、商品の性質が違うこと。コンビニだと、商品の売れた数から次の発注をするとしても、そこには同じものを買う、つまりリピートの数も含まれている。

 

笈入

 雑誌ですら同じ雑誌を毎月買うという人が少なくなっているのだから、単行本の売れ行きはますます見えない。

 

空犬

 単行本で必ず売れる本なんて、本当に限られている。

 

(後半に続きます)