第2回会議の議事録(上)

 

 2回目の会議は、2月27日(金)、前回と同じく、西荻窪のbeco cafeで行われた。出演者も前回と同じ。往来堂書店の笈入さんと、ブログ空犬通信を運営している空犬さん、夏葉社の島田の3名である。
 前回あがった課題を1ヵ月の間にそれぞれが調べてきて、それらを発表しながら、議論をしていくという方式。
 中身の濃い1時間半。2回にわけて議事録をまとめてます。
 まずは前半。他業種について。
 ぜひ、お読みください。

 

 

 

 

 空犬

 前回の第1回目は全体的な話だったが、今回はもう少し掘り下げて話を進めていこうと思う。ひとつは異業種の話。いま書店が大変だといわれているが、これが書店固有の問題なのか。小売り全体やほかの業種、特に出版と比較されやすい音楽業界の世界などと比較して、話していきたい。
それと、前回の会議に出たトピックだけれど、オーナーと経営の問題。自営店以外は、「店長=社長」でない場合が多いが、現場の書店員は経営の問題をどれくらい把握しているのか。または、どれくらい把握していくべきなのか。そのようなことについて語っていきたい。

 

島田

 小売り全体の販売額は、経済産業省の「商業動態統計調査」を調べると把握できる。卸の部分を除いた2012年の小売業販売額は、137兆5850億円。ピークは97年で、約148兆円。2012年と比較して約92%。8%の落ち込み。
一方、出版業界は、96年の2兆6563億円がピークで、2012年は、1兆7398億円。約35%減。小売り全体と比べると、落ち込みは非常にはげしいといえる。

 

空犬

 小売り全体の8%の数字をどう捉えるかによるけれど、出版と比べると、そんなに落ち込んでいない印象を受ける。

 

島田

それは百貨店に代表されるように、スクラップ&ビルドで、人件費を減らしつつ、資本を大きくすることによって、売り上げを維持しているというようなことだと思う。ヤマダ電機ユニクロのように、専門店自体が大きくなっているのも特徴。あとはイオン。
上述の「商業統計動態調査」を見ていくと、小売業販売額のなかの約15%をいわゆる大型店が占めているのだけれど、そのトータルの販売額は19兆5916億円。数字のカウントの仕方が違うから正確な比較ではないが、大型店の代表格といえるイオンの2012年の決算時の売り上げは 5兆2233億円。すごいというほかない。
こうした「商業統計動態調査」以外に、経済産業省のもっと大規模な調査が「商業統計速報」。これは2007年が最新。ここでは店舗数などさらに細かい数字を見ることができる。2007年の小売業全体の数は、1,137,859件であり、うち法人が 565,969件、個人が 571,890件である。インターネット上見ることができるもっとも古い調査結果(1994年)のものを見ると、法人が 581,207件とほぼ変わらない一方で、個人は918,741件にものぼる。個人に関しては、13年前と比較して約38%も減っている。これらの数字を見ると、個人、つまり自営が消え、大きな資本のなかにどんどん取り込まれているというのが、あきらかになっていると思う。

 

空犬

 どの業種が、とかという、細かい数字もわかるの?

 

島田

 そこまではわからないが、たとえば、小売りを研究をしていたある論文を見ていたら、鮮魚、つまり魚屋さんの総売上高のうち、1960年の時点では、約83%が自営の店舗によって販売されていた。それが、2007年だと、25%にも減っている。

 

空犬

 増えている自営業はあるのだろうか?

 

島田

 もしかしたら、雑貨屋さんなんかは増えているかもしれないが、ぼくが調べているかぎりはない。美容院などは増えている印象はあるけれど、これは小売りではなく、サービス業。
本屋さんの話に戻ると、本屋さん以外のほとんどの小売りは、資本が大きくなればなるほど、仕入れがしやすくなったり、安売りできたりと、スケールメリットを発揮して、巨大化していくことができるが、本屋さんの場合は定価は同じ。ここが決定的に違う。『本屋図鑑』で全国を取材したけれど、シャッター通りになっている商店街であっても、本屋さんは残っている場合というが多い。それは、外商の部分ということでもあるのかもしれないけれど、ほかの小売りと比べて、価格競争に巻き込まれてこなかったということが大きいのではないか。
ただ、複雑なのは、これらのあらゆる小売店の激減によって、一個人の消費者として不便を感じているかというと、そんなことはないという……。

 

空犬

 小売店でも、たとえば、24時間スーパーとか、コンビニなどのチェーン店によって、便利さは以前より増しているかもしれない。

 

島田

 坪数が大きくない店舗でも元気な小売りはけっこうあって、ぼくが今回調べたのが、その代表格ともいえる、コンビニとドラッグストア。コンビニが増えていっているのはもはや日常の光景ともいえるものだけれど、この数年、ドラッグストアの増え方が目立つ。海文堂書店さんのあともドラッグストアになってしまったし。

 

空犬

 書店のあとにドラッグストアが入るというケースはほかのところでも目につく。

 

島田

 というのも、ドラッグストアの平均の坪数はだいたい200坪で、中型の書店が抜けたあとに入りやすいのだと思う。そのドラッグストアが近年どれだけ大きくなっているのかというと、2000年に11,787店、売上が 2兆6628億円だったのが、2012年になると、店舗数が 17,144店、売上は 5兆9408億円にもなっている。しかも、高齢化社会を見据えて、まだまだ数字は伸びるといわれている。

 

空犬

 ドラッグストアとは書店は競合しないけれども、マツモトキヨシなどを見ていると文具などの雑貨は扱っているよね?

 

島田

 ドラッグストアは、薬と食品などの他の商品をいかに噛み合わせるかで利益を出す構造になっていて、粗利などを業界本などで調べると、薬はだいたい35%となっている。ヘルスケアも30%くらいは粗利があって、これらが利益を稼ぎ出す商品。これを購入してもらうために、食品の安売りなどでお客さんを引きつけるわけだけれども、食品はドラッグストアでは約15%の粗利だと書いてあった。こうしたものをミックスして、ドラッグストアの粗利は平均で約25%。しかも基本は買い切り。
(後日、調べたところ、返品率は36%もありました。すいません)

 

空犬

 買い切りを前提とすると、そこまで旨味はないよね。

 

島田

 ただ、お客さんはいつも入っている印象がある。これは、町にいるお客さんが店に対して何を求めているかということに対するひとつの回答であるようにも見えて、欲しいものは特にないけれど、なにか買いたいなと思うとき、フラッと立ち寄る場所としてドラッグストアの存在が見えてくるようにも思う。男性がひとりで行くことはあまりないけれど。

 

空犬

 ふだん吉祥寺のドラッグストアを見ていても、お客さんが入っている印象がある。

 

島田

 マツモトキヨシサンドラッグが向かい合っているのとかを見ると、すごいなあと思う……。
次にコンビニについて。

 

空犬

 こっちのほうが出版業界からすると気になる。雑誌の影響もあるし。

 

笈入

 ただ、コンビニに雑誌をとられたというのはもう10年以上も前の話。

 

島田

 たしかにコンビニの雑誌の販売額はこの15年で半分以下に落ちている。

 

笈入

 書店で落ちている以上に、落ちているよね。

 

島田

 コンビニの全体像はというと、『商業界』の2013年6月号を見ると、店舗数は50,572店で、セブンイレブンが15,307店、ローソンが11,226店、ファミリーマートが9,536店。以上の3つで全体の70%以上を占める。特筆すべきなのは、セブンイレブンが1日の平均売上が67万円で、これは他のコンビニの平均より12〜20万円も高いということだ。鈴木会長の本を読んでいると、この点を何度も強調している。粗利に関してははっきりとしたデータは出てこないのだが、ある経済ニュースで、セブンイレブンがプライベート商品の売行好調によって、粗利が30%を越したとあった。
出版業界で過去最高の売上があった1996年と2012年をセブンイレブンの数字で見てみると、1996年にセブンイレブンが 6875店舗、売り上げが 1兆6090億円。2012年は15,072店舗。全国の書店の数より多い。売上げは 3兆5084億円。

 

空犬

 すごいな。

 

島田

 コンビニはかつては飽和説がとなえられていたが、そこから伸びた。銀行だとか、プライベートブランドだとか、カフェだとか、あらたなサービスを追加していき、変化していった。

 

空犬

 さっき、笈入さんは、雑誌にかんしてはコンビ二の影響はすでにないといっていたが、いまでも出版業界の数字を話すときはコンビニの影響云々の話をする人は多い。

 

笈入

 往来堂書店でいえば、ぼくが店に来たときにはすでにコンビニがあったから。
コンビニでいえば一時期と比べて雑誌のアイテム数が激減していることのほうが気になる。いつからかは正確に覚えていないけれど、同じ雑誌を複数陳列している。たくさん種類を扱うことをやめている感じがある。

 

島田

 あらためて、なぜドラッグストアとコンビニを調べたかというと、さっきの話と重複するけれども、むかしは本屋さんが時間つぶしの場所だった。でも、いまは単純に、もっと居やすいという理由で、コンビニやドラッグストアに人がいるという印象がある。

 

笈入

 コンビニにたむろするのかな?

 

島田

 ぼくはけっこういる。雑誌を見たり、カップラーメンの新商品を確認したり。あれ、すぐに絶版になっちゃうから(笑)。でも真面目な話、セブンイレブンは1年間で7割の商品が入れ替わると鈴木会長が書いていた。とにかく意識して回転を早くしている。

 

笈入

 本屋さんと似ているところと似ていないところがある。いちばんの違いは、お客さんは同じ商品を2度買わないというところ。

 

島田

 あと、鈴木さんが書いていることで印象的だったのは、とにかく商品を絞るというところ。全体の品目数をしぼったうえで、ケースのなかのコーラを1列でなく3列、4列と並べたり、プライベートブランドのビールをどんと面陳で展開したりするという。そうすると、お店を一周することで、いろんな情報が目に入ってくる。

 

空犬

 多面展開をするのは書店も同じだけれど、全体の商品品目を絞るという点では、書店は少し違う。ただ、他業種と書店との違いは、笈入さんもさっきいったように、商品の性質が違うこと。コンビニだと、商品の売れた数から次の発注をするとしても、そこには同じものを買う、つまりリピートの数も含まれている。

 

笈入

 雑誌ですら同じ雑誌を毎月買うという人が少なくなっているのだから、単行本の売れ行きはますます見えない。

 

空犬

 単行本で必ず売れる本なんて、本当に限られている。

 

(後半に続きます)