第一回会議の議事録

 

 1回目の会議は、1月17日(金)、西荻窪のbeco cafeで行われた。出演者は、往来堂書店の笈入さんと、ブログ空犬通信を運営している空犬さん、夏葉社の島田の3名である。

 上記のほかに4人のメンバーの力を借りて、これまで会議の準備をしてきたが、現在のところ、「町本会」としてなんらかの結論があるわけではない。

 7人いれば、7人なりの展望があり、危機意識がある。

 ただ、「このままではまずい、なんとかしなければ」との思いで結びついていると書くのが、適当だと思う。

 会議のまとめは、以下のとおり。

 

 

 

 

 

 

島田

 

空犬さんと『本屋図鑑』をつくって、翌月に海文堂書店の閉店の発表があった。ぼく個人として、10年は続いていくだろうという書店を選んで、取材したつもりだったので、大変ショックだった。自分の見立ての甘さを恥じた。

 

 

 

 空犬

 

海文堂の閉店は、お客さんだけではなく、同業者にもショックを与えた。ニュースを知った書店の人が、涙声でぼくに電話をしてきた。『本屋図鑑』をつくった身として、「また1軒、書店が閉店した」だけでは終わらせたくないという気持ちがある。それですぐに島田さんと話をして、笈入さんに声をかけた。これが「町本会」のはじまり。

 

 

 

笈入

 

ぼくは店長だけどオーナーではない。そこには大きなギャップがある。現場で働く人と経営者は、考えていること、見ていることが違うのだと思う。ぼくも経営のことは半分くらいしかわかっていない。たとえば、オーナーの場合、閉店したあとに、あのタイミングで移転しておけばよかった、あのタイミングで物件を買い取っておけば、などと考える。それは、棚がどうとか、品ぞろえがどうとかとは、違う話。海文堂さんの場合、現場の人はもっとやれたと思っていたはずだが、オーナーはそうではなかったのではないか。

 

 

 

島田

 

海文堂が閉店すると知って、その棚を紹介する写真集を1ヵ月でつくって、そうしたら、10日で1000冊が売れた。最終日に神戸に行ったが、賑わいは尋常じゃなかった。お客さんもいたし、海文堂を愛している人もたくさんいた。それを目の当たりにして、なにかもっとできることはあるのではないか、と思った。

 

 

 

笈入

 

往来堂書店に入って14年目だが、仕事の大変さは増している。雑誌が売れなくなっていることが大きい。でもそれは予想のつくことではあった。町の本屋さんを、いかにして書籍が売れる場所にしていくか、そのことをずっと考えてきた。ただ、当たり前だが、雑誌を売るより、書籍を売るほうが何倍も手間がかかる。仕事の大変さが増しているというのはそういう意味。どんどん忙しくなっている。往来堂の売り上げのピークは2006から2007年。

 

 

 

島田

 

笈入さんのその仕事のやり方を「町本会」を通して共有したいとも思うが、すべての店でそれができるわけではないと思う。

 

 

 

笈入

 

お店に入り、棚が、本が、「読んでくれ、読んでくれ」とアピールしているかどうか。つまり、本屋さんが楽しい空間になっているかどうかを、お客になったつもりでよくチェックする。ちゃんと注文ができていなかったり、棚が片づいていなかったりすると、ピンとくるものが全然ないな、と思ったりする。足りないことは多い。でも、それらのことがしっかりできていれば、お客さんがつい立ち寄ってくれる場所になるのではないかと思っている。

英検の本とか、会社のプレゼンに使いたい本とか、そういう必要な本が店に揃っていることは重要だけれど、そうじゃない部分。つまり、ちょっと寄り道したくなり、その場でなにかがほしくなってしまうような空間。そういうものを目指して、どれだけがんばれるか。お客さんが全然来ない日もあるが、そういうときは、お客さんを引き寄せる魅力がいまの棚にはないのだと考える。

 

 

 

空犬

 

ただ、苦戦している店が、そうした空間づくり、品ぞろえにかんして努力をしていないというわけではない。もっといえば、我々が小さいころに通っていた本屋さんというのは、いまの目からすると、なんでもないふつうの品ぞろえの店が多かった。けれど、そのふつうの本屋さんに通い続けることで、本屋さんが好きになった。

 

 

 

島田

 

品ぞろえ云々の話は、ネットが背景にあると思う。昔は、本屋さんに行って、そこでなにが発売されているのかを知った。本屋さんで初めて見て、その本がほしくなった。いまは最初にネットで知り、そして本屋さんに行って、その本があるか、ないかをたしかめる。そこで、はじめて、品ぞろえがいいとか悪いとかの話になる。

ネット書店と大型書店、それといわゆるセレクト系の書店は、その意味で話題にのぼることが多い。けれど、ぼくが議論の俎上に上げたいのは、その構図から漏れてしまう書店。語りやすい書店ではなく、語りにくい書店をどう語るか。その書店が印象だとリアル書店の95%以上を占めるのではないか。

 

 

 

空犬

 

話題からもれてしまうような本屋さんが、どうやったら継続・維持できるかということを考えるのが「町本会」だと思う。たとえば、本屋さんの集客のポイントはどこにあるんだろう。品ぞろえだけじゃない。ぼくがいいなあと思う店には、必ず魅力的な人がいる。そこに惹かれる。

 

 

 

笈入

 

コミュニケーションもひとつのポイントだと思う。コミュニケーションのある店って、町中にはなかなかない。たとえば、繁盛しているコンビニって、お客さんと店員のコミュニケーションがあったりする。

 

 

 

空犬

 

元酒屋さんだったコンビニが、ふたたび酒屋さんに戻ったという新聞記事を読んだ。昔ながらの酒屋さんで馴染みがたくさんいて、お客さんの好みも把握していた。けれど、コンビニという効率優先の仕事だと、コミュニケーションが成立しにくい。だから酒屋さんに戻った。そんな記事だったように記憶している。考えてみれば、お酒も本と同じ嗜好品だ。

 

 

 

島田

 

往来堂というと、人文書のイメージがあるけれど、先日店に行ったときに、ディアゴスティーニ・シリーズの取り置きをしている人がいて、笈入さんとしゃべっていて、ああ、やっぱり往来堂は町の本屋さんなんだと当たり前のことに気づいた。

 

 

 

空犬

 

一昨年、往来堂書店の冊子(『千駄木の本屋さん 往来堂の十五年』)をつくるために、取材で店に長時間いたのだけれど、お客さんの8割は普通のお客さん。名物の「文脈棚」の前をスーッと通り過ぎて、雑誌なんかを買っていく。

 

 

 

島田

 

サンプル数はそんなに多くないが、トーハンが出している2013年の数字を見ると、30坪以内の書店の商品の売り上げ構成比は、平均で、雑誌が42. 2%、コミックスが13. 1%、文庫が9. 5%、ムックが7. 8%、そして文芸書が2. 5%。人文に関しては1%しかない。このような数字を見ると、本屋さんを語るときの間口の狭さを感じる。空犬さんがいう、8割の人を無視しているような気がする。

 

 

 

空犬

 

ほかにも数字とかお金とか知る方法はないかなと思って、いろいろ調べていたら、賃料の問題というのがかなり大きいと感じた。契約更新時の賃料の値上げによって、店を閉じなければいけないという例がいくつもあったと聞いた。つまり、自社物件なのか、賃貸なのかによって、立たされている環境はかなり違う。その一点だけで、同業者同士が共通の話題をもてないことすらある。

 

 

 

島田

 

たとえば、CD屋さんの数の減り具合を見ていると、恐ろしくなるときがある。急激になくなっていったが、話題になることすらほとんどなかった。

 

 

 

空犬

 

多少話題になったのは、HMVの渋谷店くらいかな。

 

 

 

笈入

 

店がなくなる前に買ってくれるといいんだけど、お客さんに、「お店がなくなるから買ってください」とはいえない。「うちで買ったほうがなんかいいから、うちで買ってね」ならいえる。その「なんか」とは、読書の相談ができるとか、世間話ができるとか、かわいい女の子がいるとか、なのかな。ますます苦しいなかでそれらをやっていかなきゃいけないんだろう、と思う。

プロレス理論ていうのがあって、プロレスで毎回同じことをやっているとお客さんは半減していくのだという。新しい見せ場をつくっていくことで、ようやくお客さんを維持できる。売れる新刊が新しい見せ場だとすれば、仕入れもままならない店では、現状を変えていくのは難しい。

 

 

 

島田

 

子どものことを考えると、町に本屋さんがないといけないと思う。歩いていける距離に、自転車で通える距離に本屋さんがないと、本屋さんのよさを知らないままに大人になる。20年後がこわい。

 

 

 

空犬

 

デジタル教科書、電子書籍の問題もある。紙の本にふれる機会のないままに、紙の本の良さを知らないままに、大人になっていくということも十分考えられる。

 

 

 

笈入

 

でも、「町には本屋さんが必要です」「紙の本はすばらしい」と結論から話すと、そういう考えじゃない人もいるよ、で終わってしまう。そこをどうするか。

 

 

 

空犬

 

大きく話すと難しい。まずは、テーマをこまかくわけて話していこう。

 

 

 

笈入

 

聞きたいこと、知りたいことは、たくさんある。本屋さんに課せられた課題は、考え方によってはすごい単純な話で、つまり、書店はより魅力的にならなければいけない、モテなきゃいけないということだと思う。

そのヒントのひとつは、空犬さんがいったコミュニケーション、人にあると思う。それと、話題になることは少ないが、普通に使っている本屋さんの見えない部分。店舗設計とか、そういう部分を他業種からも学びたい。あとは、本屋さんが忘れられないために、本屋さんが店のなかで待っているだけでなく、出ていく必要があるとも思う。つまり、地域とどうからむか。

最後に、本屋が本屋同士で仲間を得るメリットとはなんなのかを、「NET21」を参考に考えてみたい。

 

 

 

空犬

 

「町本会」が、他業界ではこんなやり方をしているんだという、書店員さんにとっての、発見の場になればいいなと思う。