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第3回会議の議事録(下)

 

今年3月15日に開催しました第3回目の「町本会」の議事録の(下)です。
「本屋だけは『つまはじき者』を出さないような場所にしておきたい」と話す、増田書店・篠田さんの本屋論。最後までお読みください。

なお、今回の議事録は、共催してくださった「国立本店ほんとまち編集室」さんが制作してくださいました。ありがとうございます!
(「国立本店」さんの HPはこちら→http://kunitachihonten.info/



笈入

本をなぜ読むのかを伝えてこなかったという話がありましたけど、たぶん僕らの世代も含めたもうちょっと上の世代への話なのかなと思います。
ばっちりした結論でなくてもいいので、本とはこんなもんなんじゃないかなというのはありますか? すごく大袈裟な質問だし、難しいとは思いますが。実感として本はそう簡単になくしてはいけないというのがあるわけですよね。

 

篠田

そうですね。うーん、やっぱり増田書店があって国立がある。国立があって増田書店があるっていうのもそうなんですけど。
最初は増田書店が国立の文化を背負っている部分があると思って入ったんです。それがだんだんと変わってきて。さっき島田さんが仰っていたみたいな、ラカン読んで、翌日に友達に話してイヤな思いをさせたりとか、ぼくもしてるんですけど。

 

島田

させなきゃだめなんですよ(笑)。

 

篠田

評価の高い人たち。たとえば、小林秀雄とかはいまよりずっと読まれていたはずなのに世の中あんまり良くなっている感じがしない。別に本を読んだからって賢くはならないなというのを、すごく思うようになりました。だから文化に貢献するというのも、ちょっと違うのかなと……。
文化を背負うというよりは、もっと平たい感じになってきていて。つまり、本屋にはあらゆる考え方が揃っている。個人的にはあんまり好きじゃない、もしかしたらあんまり目に触れないようにしておいたほうがいい考え方の本ですら、ちゃんと揃っている。
特に国立の増田書店みたいなところは、本当に入口でいい。育っていく子たちがいろんな考え方に触れて、正反対の考え方の本も置いてあって、なるべく広い考え方に触れられるような場所というか。ああいう小さい規模の町で、といっても7~8万人くらいはいますが、なるべく本屋だけは「つまはじき者」を出さないような場所にしておきたい。あらゆる考え方があって、誰が来てもよくて。
twitterとかで、本屋に嫌韓の本が積んであるのはどうかといわれているじゃないですか。たしかに個人的にも好かないんですけど、1冊の本でそんな振り回されてんじゃねえよと。つまり、読んでみて、この人たちはこんなふうに考えているのかと調整していくような考え方。もし自分はそうじゃないんだったら、なぜその人たちがそう考えているのかを知って、調整していけるような人たちを醸造するというか、そういう場所にしておきたいと、個人的には思っています。
やっぱり町の本屋というのは、言いたいことがあるというよりも、人の話を聞く場所にしておきたい。お客さんとの対話っていうんですかね。ぼくが好んで行く本屋は言いたいこと、こうあるべきというのがしっかりとあって、それはそれでいいんですけど、増田書店の規模だったら、それをやるのはやっぱり違うような気がします。
薄っぺらい中でも誰かが引っかかってくれて、もしかしたら7万人に1人くらいは自分みたいにいずれ、「ああ、あの本屋は結構いい店だったのかもしれない」って、どこか別の町に行った時にでも、思い返してもらえるような場所であればいいかなと思っています。
本は好きだし、守らなければいけないというのはすごくわかるし、ぼくもそう思うから本屋をやっている。あらゆるものが書きつけてあるというのはポジティブなことだと思うので。

 

笈入

なるほど。他にそういう役割を果たす場所ってないもんね。

 

篠田

そうですね。そんな気がします。人によっては、かつて本屋が担っていたようなものを別の場所に作っているのかもしれないですけど。

 

笈入

タコ壷化とかよくいうじゃないですか。そういうのとは逆の働きが結果としてはあるのかなと。

 

島田

紀伊国屋書店佐賀店の店長さんが、ほぼ同じようなことを仰っていたんですけど。多様性。入り口となる本屋さんに徹する、というのを聞いたときに、紀伊国屋書店さんの品揃えというのは納得するところがあって。ニュートラルな感じといいますか。

 

笈入

お客さんとの対話というのは、職場の先輩とかからこういう風にやるもんだみたいに教えられたことはないんですか?

 

篠田

はい、まったくないです。店長が結構しゃべるほうなので、それを見てというのはあるかもしれないです。常連さんとはよく話すようになりました。ぼく、常連っていうのはこんなに来るものなのかと思って。本当に毎日来て、毎日買っていくっていう。

 

笈入

それはなんでだと思います?

 

篠田

それがわからないんです。

 

笈入

そこは研究しましょうよ(笑)。

 

篠田

だって土曜に来て、日曜に来たって、日曜は入荷がないから何も変わってないのに、買っていく人もいるし。

 

碧野

そういう人は何人くらいいらっしゃるんですか?

 

篠田

顔が思い浮かぶだけでも、10人くらいは。

 

碧野

すごい! ちなみに笈入さんのとこは?

 

笈入

ええ? まあ2人くらいですかね。

 

碧野

毎日買っていかれますか?

 

笈入

毎日買われますね。なんかもう買わなきゃいけないものだと思っているんじゃないですか。

 

島田

入場料的な感じで。

 

碧野

そういうお客さんって一般的にどこの本屋さんにも少なからずいるものなのかしら?

 

島田
小さい本屋さんの場合だとよくそういう話は聞きますよね。本屋図鑑を作っている時に、人がいる店内のイラストを描きたいから写真撮影に協力してくださる方いませんか? って聞いたら、たぶんね、あと10分くらいで来ると思うんだよねといって。九州だったんですけど。本当に10分後に来るんですよ。

 

碧野

本屋図鑑に載るような本屋は、濃い客を掴んでいるのだと思いますけど、普通のナショナル・チェーンはどうなんですかね。

 

笈入

話す暇がない。ぼくが旭屋書店にいる時はまず無理でした。差し支えない範囲で構わないんですけど、お客さんとはどういった話をされますか?

 

篠田

天気のこととか。春めいてきたっていうようなことから、やっぱり本の話。あれがおもしろかったとか。本に関しては、本当にお客さんに教えていただけることがすっごく多くて。それで読んでみて入れる作家もいるし。

 

笈入

それはいいサイクルですね。サイクルとかいうとなんかいやらしい感じがするけど。

 

篠田

いやでも本当に。お客さんに育てられているところがあります。

 

笈入

ぼくもこのあいだ、時代小説の文庫で、この作家とこの作家は痛快一番だから絶対に入れろっていわれて、佐伯さんの次は絶対にコレだからって4~5人教えてもらったかな。そういうのはありますね。人にもよりますけど、本を読んだら誰かにしゃべりたいというお客さんは多いのかもしれないですね。

 

篠田

あれがよかったとか、最近いい本ある? というのは、非常によく聞かれます。

 

島田

300~500坪っていう広さだとそういうのは難しいのかな。

 

笈入

いや、面積っていうより人手の問題ですよ、単純に。ぼく池袋にいる時なんか目を三角にして、話しかけてくれるな! つって仕事してましたもん。みんなそうでしたよ。だってそうしないと仕事が終わらないんだもん。

 

島田

まちづくりという観点から活動している若い人たちがたくさんいると思うんですが。たとえば、今日は共催という形で国立本店さんがおりますけど。すいません、紹介が遅れましたけど、最後の最後にすみません。

 

伊藤

ご紹介いただきました。国立本店の伊藤と申します。国立本店自体はもともと西新宿のOZONEというところでイベントなどのディレクターをやっていた、萩原修さんという方が、デザイナーのコミュニティの拠点として作ったのが始まりです。
私たちはほんとまち編集室という名前でメンバー約30名くらいで活動しているんですけど、それ自体は今年2年目で、メンバーがそれぞれ本を持ち寄って店の本棚を埋めて、その場所を使って自分たちがやってみたいことをやりながら地域との接点を持つというのが基本的なところで、コミュニティスペースとしてやっています。

 

島田

それで去年は増田書店さんの本でイベントをしたんですよね。

 

伊藤

私たちが活動するなかで地域との関わりというのを考えた時に、まずは国立のリアルな本屋。書店員さんの知恵というか、すごいところを見てみたいという単純なところから始まって。じゃあ増田書店さんにお願いして棚を作っていただきましょう、そして私たちが売りましょうという企画を去年の8月に2週間やらせていただきました。

 

島田

国立本店さんの場所で増田書店さんの本を売ったってことですよね?

 

伊藤

はい、会期中は篠田さんが毎日手を入れてくださるので、毎日まったく違う棚になっていって。2週間のあいだにそこで売れた分というのは、増田書店さんの普段の売り上げからすればたかが知れていたと思うんですけど、それでも篠田さんが労力をかけて夜遅くに台車で本を運んでくださるという。
でもそういうことをやってみたら、多方面からすごく注目していただいて。増田書店さんは最初のほうのお話にもあったように、ちょっとコワイなっていう印象があって。最初はおそるおそる社長にプレゼンしに行って、OKをいただいて。国立本店は非営利団体ですし、なにをやっているかよくわからないようなところではあるんですけれど、だからこそできることがあると思っていて。増田書店さんとの関わり方とか、今回の町本会というのもそうなのかもしれないですけど。

 

島田

笈入さんのほうも、不忍ブックストリートが今年5月にありますけど。それは谷根千(*5)の人たちが?」

 

笈入

もともとは、往来堂書店のある不忍通りに数軒の古本屋さんが集まりつつあったんで、この通りを不忍ブックストリートと名乗ってしまえという、町おこし的なイベントですね。実行委員がいて地図を1年に1度改訂して、年に1回か2回、一箱古本市という参加型で50~100人の方々が本を持ち寄って売るという。その実行委員がお店をやっているので、なかなかその人間だけでできるわけもなく、不忍界隈で生まれ育ったわけでもない人たちが、結構参加してくださってます。ボランティア的な方々も広く募集して。これはもはや地元によるイベントの域を超えてます。

 

島田

本屋さんてそういう時に拠点になりやすいような気がするんですけど、それってなんでなんですかね?

 

笈入

それはさっきも話に出たけど、誰が来てもいい場所だし、出入りのハードルが低いというのもあるんじゃないですかね。本屋側の人間も別に待ち合わせに使ってくれてもいいよって普通に思ってるんですよね。それは単にいままでそうだったからってことだけですけど。他の店だったらさ、注文もしないで帰るのかって話になっちゃうけど。喫茶店だったらお茶飲まなきゃいけないし。でも、本屋はまたいつか来てくれるかもしれないしって、こんな本置いてんのかってまずは見て帰ってもらえればいいから。

 

 

 

*5 谷根千・・・谷中、根津、千駄木を含むエリア。新刊・古書店、出版社など、本に関わる人たちが集まっている