子どもの文化普及協会

 

 

「子どもの文化普及協会」って、ご存知ですか?
ぼくは知りませんでした。
「町には本屋さんが必要です会議」を立ち上げたとき、真っ先にご連絡をくださったのが、表参道にある「子どもの文化普及協会」さんでした。「私たちは、子どもが本に触れられる場所を、もっと、もっと増やしたいと思っている」と。

町の近所の本屋さんがなくなるということは、すなわち、子どもたちが、自分の足で行くことができる本屋さんがなくなるということです。
前回の「町本会」で、「なぜ、本屋さんだけがこんなにも惜しまれるのだろうか?」という話が出ましたが、それは、物心つかないうちから親に手を引かれ連れていかれ、成長するたびに色んなジャンルの本に興味をもつようになる、そんな場所が「町の本屋さん」だったからだと思います。
たとえば、ある日、マンガを1冊買えるだけのお金で、文庫本を買う。
本屋さんは、子どもたちにとって、もっともわかりやすい、成長を刻める場所でもあります。


2月の下旬、「子どもの文化普及協会」の取締役である岩間建亜(いわま・たけつぐ)さんがお話ししてくれたのは、彼らが1976年から取り組んでいる、「あたらしい」試みでした。
それは、「クレヨンハウス」の誕生からはじまります。子どもの本の専門店として1976年の12月にオープンしたクレヨンハウスは、当初は、23坪の小さなお店でした。
店の半分がカフェとキッチンで、いまと変わらず、親子がゆっくりと本を選べるような場所を目指していたといいます。
そのころは、まだ日本には数えるくらいしかなった絵本の専門店でしたから、選書には、とにかくこだわりました。けれど、取次からは、日々、発注していない本が送られてきます。一方で、ほしい本はなかなか店には届きません。


「自分の店に並べる本は自分たちの目でしっかりと選びたい。選んだ本は責任をもってちゃんと売る。つまり、買い切りでいい。だから、そのぶん、卸値を下げてもらえないだろうか?」

他業種の小売りからすれば、ごくごく普通の主張だったのにもかかわらず、岩間さんたちの主張は、叶うことはありませんでした。

それから10年。

自分たちの望むやり方を実現するために、岩間さんたちは、あたらしく自分たちの手で取次をつくりました。それが、「子どもの文化普及協会」です。
「子どもの文化普及協会」が提案する取引条件は、驚くくらいに明快です。

 

・買い切り。

・口座開設にあって、保証金は不要。

・卸値は基本的に定価の70%(出版社からの卸値に+10%をしています。なので、65%仕入れの出版社の場合、75%となります)

・発注単位は3万円以上。送料無料。

 

取引のある出版社は240を数えます。また、本屋さんだけではなく、おもちゃ屋さん、動物園から、仏具店まで、さまざまな小売店に本を卸しています。それ以外にも、絵本の知識を活かして、小売店の要望に合わせた本のセレクトもやっています。たとえば、とにかく「かえるの本」を集めてほしい、といわれれば、スタッフ全員で「かえるの本」の記憶を掘り返し、「かえるの本」を集めます。

「クレヨンハウスの運営に10年携わってきて、本屋さんを経営する難しさというのを学びました。2割の粗利では本当に厳しい。なんとか3割を確保できないかと考えたんですね。子どもの文化普及協会をはじめた1986年の時点で、本屋さん、出版社、ともに厳しいという声はありました。子どもの本の世界では、あたらしい作家もなかなか育ってきていませんでした。このままでは、親子が本に出会える場所がどんどん減ってしまう。そんな危機感があって、最初は出版社6社に相談をさせていただいたんです」

自分の町から本屋さんがなくなってしまったとき、若い人たちは、自分で本屋さんをやりたいといいます。けれど、新たに口座を開いて、新刊書店をやることは、現在のシステムでは、ほぼ不可能だといっていいと思います。
町から本屋さんがなくなっていった理由はひとつではありませんし、だれか特別な悪玉が存在しているわけではありません。なにかを一つ変えれば、問題が解決するというものではないと思います。
けれど、やる気のある人はたくさんいます。本を通して、本屋さんという場所をとおして、なにかを伝えたい人たちの数は、以前よりも増えている印象すらあります。

「子どもの本は、出版物全体では約5%の売上げしかありません。かつては3万5千軒あった本屋さんも年々減り続けています。子育て中のお母さんたちは忙しいし、子どもたちも減ってきている。そのなかで、どうやって、子どもたちに本を手渡していくか。本屋さんだけでなく、もっといろんな場所で本を手渡すことはできると思っているんです」

人と本が出会える場所をどう守り、どうやって、つくっていくのか。
「子どもの文化普及協会」の取り組みは、たくさんのことを、示唆してくれているように思います。

 

子どもの文化普及協会HP

https://b2b.kfkyokai.co.jp/shop/default.aspx

 

(文責  島田潤一郎 

 取材日 2014年2月19日)